新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【20品目】器のTPO
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」20品目
「食堂生まれ、外食育ち」の編集者・新保信長さんが、外食にまつわるアレコレを綴っていく好評の連載エッセイ。ただし、いわゆるグルメエッセイとは違って「味には基本的に言及しない」というのがミソ。外食ならではの出来事や人間模様について、実家の食堂の思い出も含めて語られるささやかなドラマの数々。いつかあの時の〝外食〟の時空間へーー。それでは【20品目】「器のTPO」をご賞味あれ!
【20品目】器のTPO
試しにツイッターで「紙ストロー」と検索してみてほしい。状況は刻々と変化するのでジャストナウどんな感じかはわからないが、本稿執筆時点では紙ストローとその導入を決めた人間への怨嗟の声が渦巻いている。
紙ストローについては「口当たりが悪い」「吸いにくい」「ふやける」「紙の味で飲み物がマズくなる」あたりが主な意見。総合評価としては「トイレットペーパーの芯で飲んでるみたい」ということらしい。漫画家の唐沢なをき氏は初体験後、「まあ日頃の行いが良くないことの報いと考えれば我慢できるかな」とツイートしていて、そんな仏罰みたいなストローってどんなんだ? と、気になってしょうがない。
ツイッターで見る限り、少なくともマクドナルドとスターバックスでは採用されているようだ。これは体験してみるしか、というわけで近所のマクドナルドへGO。持ち帰りでフライドポテトとコーラを注文し、ワクワクしながらストローの袋を開ける……が、出てきたのは普通のプラスチックのストローだった。なんでやねん!
店舗によって採用してるところとそうでないところがあるのか。しょうがないので別の日にスタバに行ってみた。なんちゃらフラペチーノは注文するスキルもなければ飲みたいとも思わないので、壁におすすめっぽく貼り出されていた「ゆずシトラス&ティー」とかいうやつのアイスを注文。細いストローを付けてくれたが、カウンターに太いストローもあったので、念のためそちらももらってきた。
ストローの袋を開けると、今度はちゃんと紙ストローが出現。ボール紙を巻いたような外見は、確かにトイレットペーパーの芯っぽい。まずは細いほうで飲んでみたが、底のほうに溜まった果肉が詰まって全然吸えない。太いほうに替えたら無事吸えたものの、どうも空気が漏れるというか混じるというかスムーズさに欠ける。おまけにストローが唇に貼り付く感じで口当たりも良くない。全体に微妙な不快感が伴うので、せっかくの飲み物が台無しとは言わないまでも2割減ぐらいにはなる気がする。
それでもスタバの紙ストローのほうがマクドナルドのそれよりはマシらしい。マクドナルドのほうはもっと強度が低く、飲んでるうちに水分でふにゃふにゃになるという(評判が悪すぎてプラスチックに戻した店舗もあるようなので、下北沢店もそうなのかも)。ストローを紙にしてもカップやフタはプラスチックだったりするので、プラごみ削減にどれだけの効果があるのかは謎。ゼロではないにしても、口にしたときのあのガッカリ感×人数分のQOLの低下に見合うだけのものがあるのかどうか。まあ、外出時のマスクにもすっかり慣れてしまった我々だから、紙ストローにもそのうち慣れるのかもしれないが……。
ガッカリといえば、もうひとつガッカリしたことがある。先日、下北沢にすき家がオープンした。マイ牛丼チェーンランキングで吉野家に次ぐ2位にランクインするすき家である。ちなみに3位は松屋ではなく、今はなき神戸らんぷ亭なのだが、実は下北沢には(東京チカラめしとか伝説のすた丼屋とかを別にすれば)長らく松屋しかなかった。昔は駅前に吉野家があったが、それが閉店して以降、松屋の天下だったのだ。ところが、2020年に吉野家がカムバック、さらにすき家もオープンということで、さっそく入ってみたのである。
しかし、そこは私の知っているすき家ではなかった。注文は、店員が取りに来るのではなく入店時にタッチパネルで入力し会計する。番号を呼ばれたらカウンターで受け取り、自分で席まで運ぶセルフ式。このご時世、それは別にかまわない。牛丼に玉子とお新香を付けたくて、どの画面でどのボタンを押せばいいのか迷ったが、それもまあいい。問題はそのあとだ。
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